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日別アーカイブ: 2026年8月21日

宗教工芸新聞に載りました。

昨年ですが取材を受けました令和7年2月(2025年2月)のことになりますが、仏壇や仏具などの専門業界紙である『宗教工芸新聞』様から取材をしていただき、紙面にて私の写真や、「蝋色(ろいろ)」という漆の技術への取り組みを掲載していただきました。業界の第一線で職人の仕事や市場の動きを追い続けておられる専門紙に取り上げていただけたことは、ただただ愚直に技術と向き合ってきた身として、本当に身の引き締まる思いでしたし、素直にとても嬉しい出来事でした。

せっかくの機会ですので、取材の背景や『宗教工芸新聞』という新聞のこと、そして自分がこだわり続けている「蝋色」という塗りの仕事について、このブログに少し書いてみようと思います。

日本の「祈り」と手仕事を支える『宗教工芸新聞』
多くの方にとって『宗教工芸新聞』という名前は、あまり馴染みがないかもしれません。普通の書店やコンビニには置いていなくて、全国の仏壇仏具店さんや伝統工芸の工房、仏具メーカーさん、それとお寺などで読まれている、1983年創業の歴史ある業界紙です。

この新聞は、単なるビジネスのニュースだけを載せているわけではありません。京都や高岡、彦根、川辺といった全国の産地で受け継がれている職人の技や、後継者不足の悩み、供養のかたちが変わっていくことへの対応、震災からの復興など、日本の伝統を現場で支える人たちの「生の声」がしっかりと記録されています。

時代がどれだけデジタルになって、生活が変わったとしても、人が亡くなった人を想って手を合わせる気持ちは変わらないと思います。その「祈りの場」を形にしているのが、木工や彫刻、金具、蒔絵、そして私たちがやっている漆塗りといった伝統の技術です。

そうした本物の手仕事をちゃんと記録して、次の世代へ残そうとされている同紙から取材のお話をいただいたときは、自分のやってきた仕事が少し認められたような気がして、本当に光栄に思いました。

写真とともに紹介された「蝋色(ろいろ)」という技術
令和7年2月号の誌面では、私の照れくさい写真と一緒に、漆工芸の中でも特に手間と時間がかかる「蝋色(ろいろ)」という技法について取り上げていただきました。

「蝋色(ろいろ塗り)」というのは、漆を塗った一番最後の工程で、表面を何度も研いで磨き上げることで、鏡みたいに深い光沢を出す伝統的な技法のことです。

普通の漆塗りは「塗って乾かしたら完成」と思われがちですが(もちろんそれも大変なのですが)、蝋色はそこからが本当の始まりになります。専用の木炭を使って表面を極限まで平らに研ぎ伸ばして、そのあと油分の入っていない特殊な漆を素手や指の腹で何度も擦り込みながら、細かい粉を使っての手作業で少しずつ磨いていきます。

これは機械で磨いても絶対に出せない質感で、ぬめり感のある深い黒と、吸い込まれそうな艶が出ます。職人の手が何万回も触れて、漆と会話するみたいにして初めて生まれる光沢なんです。

取材では、この伝統的な蝋色の美しさだけじゃなく、今の暮らしの中でどう漆を使ってもらうかという話もさせていただきました。特に、古くなってツヤが消えてしまった漆を全塗り替えせずに蘇らせる「復活蝋色」の工夫などについても話をさせていただき、記者の方もすごく熱心に聞いてくださいました。

出来上がった紙面で自分の写真や記事を見たときは、やっぱり少し恥ずかしかったですが、同時に「この漆の本当の美しさを、もっとたくさんの人にちゃんと伝えていかなきゃいけないな」と、気持ちが引き締まる思いでした。

時代の変化の中で「本物」を磨き続けること
いまは住まいのかたちも変わって、小さな仏壇が好まれるようになったりして、伝統的な仏壇や漆を取り巻く環境は正直甘いものではありません。安くてパッと見は綺麗なプリント製品や簡易的な塗装のものが、簡単に手に入る時代でもあります。

けれど、本物の漆や、手間暇かけて研ぎ上げた蝋色の表面には、何年、何十年と経つほどに味わいが出てくる独特の温かさと強さがあります。100年前の職人が作ったものが今でも綺麗に光っているように、手仕事の本当の価値は「時を超えること」にあると思っています。

『宗教工芸新聞』に載せていただいたことは、自分にとって一つの大きな節目ですし、ここからがまた新しいスタートだと思っています。

プロの目が見ている専門紙に取り上げていただいた誇りを忘れずに、これからも一塗り、一研ぎを誤魔化さず、愚直に手仕事と向き合っていきたいです。伝統の技を守りながらも、いまの暮らしに合う漆の美しさを届けていきますので、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです。

 

ちょっとこの話を。。。

住職さんとのあの日のお酒の席での出来事です。
現場の仕事でお寺に通う日が続いていた頃、ありがたいことに住職さんが食事に誘ってくださいました。お寺のこと、漆のこと、仏具のこと。仕事の合間には聞けない話をたくさん伺い、気付けば二軒目のお店へ。住職さんの行きつけの店で、ご馳走になったのは「山崎」というウイスキーでした。「今日は特別だから」と出されたそのお酒を前に、私は少し焦ってしまいました。

実はお酒がとても弱いのです。少しだけグラスに注ぎ、水をたっぷり足して、かなり薄めて飲もうとしました。すると住職さんが苦笑いしながら一言。

「藤田さん、本物のウイスキーを味わうには先ずストレート、その後ロックですよ!そんなに水を入れたらウイスキー風味の水になってしまいますよ」

ハッとしました。職人としてハッとさせられました。
蝋色の漆は、純度100%のまま使ってこそ、本当の美しさと強さが出る。薄めたり誤魔化したりせず、素材そのものの良さを素直に活かすこと。住職さんのお酒の飲み方から、大事な作法を教えてもらった気がします。

あの言葉を今も胸に刻んで、毎日漆と向き合っています。

 

 

 

蝋色の漆は純度100%の深遠な輝き

漆黒の闇の中に、吸い込まれるような奥行きと鏡のような光沢を放つ「蝋色(ろいろ)」。日本の伝統工芸において最高峰の技法とされる蝋色は、単なる装飾を超え、古くから仏教の精神世界と深く結びついてきました。その圧倒的な美しさの秘密は、一切の不純物を排除した素材にあります。

本記事では、蝋色の漆は純度100%であるからこそ到達できる至高の輝きと、その背景に流れる仏教的感性について深掘りします。現代の大量生産品では決して真似のできない、職人の魂が宿る「漆黒の宇宙」の正体を、専門的な視点から紐解いていきましょう。

蝋色仕上げとは、油分を含まない純粋な漆を塗り重ね、炭で研ぎ、手で磨き上げることで、鏡面のような光沢を生み出す技法です。その輝きは、内面を映し出す「鏡」としての役割も果たしてきました。

蝋色の漆が持つ「純度100%」の定義と重要性

漆の世界において、仕上げに使われる漆には大きく分けて「油分を含むもの」と「含まないもの」があります。一般的な漆器に使われる「花塗り(塗り立て)」は、漆に乾性油を混ぜることで光沢を出しますが、蝋色の漆は純度100%の「無油(むゆ)漆」を使用するのが鉄則です。

この純度100%の漆は、職人が「くろめ」と呼ばれる工程で、生漆から水分を丁寧に取り除き、成分を凝縮させることで作られます。不純物が一切混じらないからこそ、漆本来の硬度と透明感が最大限に引き出され、数百年もの歳月に耐えうる強靭な塗膜が形成されるのです。

蝋色仕上げを実現する最高品質の素材

  • 無油漆:油分を一切加えず、漆本来の酵素反応のみで硬化させる最高級の漆。
  • 駿河炭:漆の表面を平滑に研ぎ出すために欠かせない、非常にきめの細かい特殊な炭。
  • 種油と鹿の角の粉:最終工程の「手磨き」で使用される、自然由来の極細研磨剤。

職人の技が光る「蝋色仕上げ」の過酷な工程

蝋色の輝きを得るためには、気の遠くなるような手作業が必要です。まず、蝋色の漆は純度100%のものを数回塗り重ね、完全に硬化させます。その後、木炭(主に駿河炭)を用いて表面を平らに研ぎ落とす「炭研ぎ」を行います。この工程で、わずかな刷毛跡や塵を完全に排除します。

次に、さらに細かい研磨剤を使い、表面を滑らかにしていきます。最終段階は「胴擦り(どうずり)」と「摺り漆(すりうるし)」の繰り返しです。指の腹や手のひらを使って、生漆を薄く塗り込み、それを拭き取ってから磨き上げる作業を何度も繰り返すことで、漆の粒子が緻密に整い、あの独特の艶が生まれます。

この工程において、少しでも妥協があれば、完成した瞬間に「曇り」となって現れます。職人は、目に見えないレベルの凹凸を指先の感覚だけで察知し、完璧な平滑面を作り上げます。まさに、己の精神を研ぎ澄ます修行のようなプロセスを経て、蝋色は完成するのです。

具体的な制作手順のフロー

  1. 上塗り:純度100%の無油漆を、塵ひとつない環境で均一に塗布する。
  2. 炭研ぎ:駿河炭を使い、水を引きながら表面を完全に平滑にする。
  3. 胴擦り:砥の粉や油を混ぜたもので、炭の研ぎ跡を消していく。
  4. 摺り漆:生漆を極薄く摺り込み、漆の組織を緻密にする。
  5. 手磨き:鹿の角の粉を指に付け、摩擦熱を利用して光沢を出す。

本物の蝋色は、鏡のように対象物をくっきりと映し出しますが、その映り込みには深い奥行きがあります。合成塗料は表面だけで光を反射するため、どこか平面的で冷たい印象を与えます。また、長年使用しても色が褪せず、むしろ使い込むほどに漆の透明度が増し、より深い輝きを放つのが本物の特徴です。

購入や修繕を検討する際は、以下の点を確認することをお勧めします。信頼できる工房では、使用している漆の産地や、炭研ぎの回数を明確に説明してくれます。特に、仏壇や高級文房具など、一生ものとして扱う品物こそ、この「純度100%」の価値を重視すべきです。

「本物は、闇の中でも光を見つけることができる」。ある老舗漆器店の主人は、蝋色の魅力をこう語ります。光が少ない場所でこそ、その真価が発揮されるのが天然漆の凄みです。

結論:深遠な輝きを次世代へ繋ぐために

蝋色の漆は純度100%であるからこそ、私たちの魂を揺さぶるような深遠な輝きを放ちます。それは、単なる工芸の技法ではなく、仏教の精神性と職人の執念が結実した、日本文化の至宝です。その輝きを維持し、次世代へ継承していくことは、日本の美意識を守ることそのものです。

私たちができることは、この価値を正しく理解し、安易な代用品に流されず、本物を手に取ることです。一点の曇りもない漆黒の表面に映る自分自身を見つめる時、そこには時代を超えた普遍的な美しさが存在しています。ぜひ、日常の中にこの「純度100%の輝き」を取り入れ、その精神的な豊かさを体感してみてください。

本物の蝋色が持つ力は、あなたの空間を、そして心を、より深く、より静かに彩ってくれるはずです。伝統を守りつつ進化し続けるこの技法は、これからも世界中の人々を魅了し続けることでしょう。